■ 決意 ■

アツヤとハルカが出て行った後の酒場。
その日は店を開けることもなく、ワンは一人佇んでいた。
「…運命とは気まぐれなものアルネ。…抗う事も、流される事もワタシには許されないのカ。」
色褪せている一枚の写真。
ワンはそれを見つめつつ、写真とは対照的に未だ色鮮やかに刻まれている昔を噛み締める。
「…クリウス…ブランシュ…楓…あの頃のワタシはまだまだ坊やだったアルネ…いや、今もカ。」
口元からこぼれる笑い。
それは照れ笑いとも、己への皮肉とも思えた。
「そろそろ、昔を見るのはやめるアルヨ。あの2人がやってきたときにワタシの中で何かが繋がったヨ。あの目は昔のワタシ達と同じだったネ。」
静かに目を閉じる。
刹那の瞬間に思い起こすのは自らの歴史。
次に目を開いたときのワンの目は強い光を宿していた。
旧知の者が見れば、それはあの頃と同じ目だというだろう。
「決心はついたアル。あとは時を待つばかりアル。……ご苦労だったネ、フヅキ。」
「あらら。気づかれてたのね。何か物思い気だったから声掛けなかったのだけど。」
声を掛けられて多少、驚いたのか腕を広げながら近づく一つの影。
「思い出に浸るにはまだまだ若いんじゃないの?」
フヅキのそんな言葉に見られていた恥ずかしさから口元が歪む。
「まったく…タイミングが悪いアルヨ。…で、調査は?」
「じゃあ、順々に話すわね。まず、イクルーズ。すっかり変わってしまってるわね。街の周りにまで高い壁が出来てて侵入はちょっと無理だったわ。だからはっきりとは言えないけど、ワンさんの言う通りだと思う。」
その言葉にワンの表情が目に見えて曇る。
「そうか…ミスティ=ホーンの方は?」
「そっちはダメ。全然、情報が掴めないの。…あながち全滅という噂も噂で済まないかもね…。」
一抹の希望を持っての問いかけも無常にも散る。
分かっていた。
分かっていた事ではあるが、覚悟というものは難しい。
「最後。私にもちょっと関係ある『あの組織』のことね。相変わらず、様々なところで暗躍しているみたいだけど…気になる事が一つ。」
フヅキは思い出すかのように少し上を見上げる。
「関連してる研究所の一つが古代遺跡から何か見つけたらしいの。その何かってのはわかんないんだけど…。」
「…そうか。ご苦労だったネ。イクルーズとミスティ=ホーンはいいからその研究所とやらを探ってみて欲しいアル。」
さっそくの仕事の依頼にフヅキは膨れる。
「もぅ!!せっかく報告に戻って来た途端にそれなの?もう少し労ってくれても神様は怒らないと思うけど?」
腕を組んで膨れるフヅキ。
ワンは苦笑いをしながら頭を掻く。
「悪かったアル。じゃあ、とっておきのワインをご馳走するヨ。」
そう言いながらカウンターに歩いていくワン。
「そうこなくっちゃ♪」
初めから予想してたかの如く態度を変えてそばの椅子にフヅキは腰掛ける。
ワンはグラスにワインを注ぐ。
真っ赤なワインは美しくもあったが、その赤さはワンに不安を募らせた。

前話へ  次話へ

Prismaticへ  indexへ

Copyright (C) 2005 Key of Star - endless story -.

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送