■ 血色の瞳 ■

「ハルカ!!そっち行ったぞ!!」
アツヤの剣をかわした虫型のモンスターは目標をハルカへと変え、襲い掛かる。
アツヤとの戦闘でダメージを受けて、羽や胴体には無数の傷を負っていたが最後の力でハルカへと毒牙を剥く。
「ミーだって魔法だけじゃないんだぞ!えいっ!!」
ハルカの振り下ろした杖が命中し、煙となって消えてゆく。
ワンの酒場でクエストを受け、目的の町へと向かっている最中にアツヤ達はモンスターに遭遇していた。
「一匹、二匹…あれ?もう一匹いなかったっけ??」
首を傾げるハルカの背後から忍び寄るモンスターの影。
しかし、それは煙となって消え行く最中だった。最後には何も残らないはずだがそこには兎が一匹。
「どうやら邪念に囚われたこの兎がモンスターの正体だったようですね。この子はまだ取り込まれきってなかったのでその邪念をこのセイレーンで打ち抜きました。ですからもう、大丈夫ですよ。」
そう言うとルカは兎に近寄り、やさしく撫でてやる。
「もう悪い事してはダメですよ?兎さん。」
どこかこくこくと頷いたように見えた兎は体を翻し、野を駆けてゆく。
「すっごいね、ルカさん!さすがは聖職に就く人だよ。」
ハルカは大げさな動作でルカを褒め称える。
「いえいえ…私もまだまだですわ。」
対するルカも大きく体の前で腕を振ることで応える。
「しかし…回復役がいるってのはいいな。オレなんかは結構、突進したりするから怪我が多いんだよな。」
辺りへの警戒を緩めたアツヤが剣を収めながら言う。
「ハルカが体力無いから守ってやらねぇとダメだし…やっぱり、安心感が違うよ。」
体力が無いと言われたハルカは恥ずかしそうに頭を掻く。
魔法使いのハルカと魔法剣士のアツヤとではやはりどうしても体力の差が出てしまうのだ。
「そう言って頂けると有難いのですが…無理はなさらないでくださいね?」
ルカは心配そうな眼でアツヤに言う。先ほどの戦闘では誰も大きな怪我はしなかったがこの先はどうかわからない。ルカは心から心配していた。
「大丈夫だって。2人の盾はオレがやってやるよ。その代わり援護頼むぜ。」
ルカの言葉にアツヤは力強さを込めた言葉を返す。それは自分への信頼を求めると共に2人への信頼を表していた。
「まっかしといて!あっちゃんの背中はミーが張り付くよ!!」
「ハルカ…そいつは邪魔だな。」
「えぇ〜?!あっちゃんひどいよ!!」
2人のそんな漫才じみた会話にルカは安心感と信頼感から一層、優しい笑みを浮かべる。
「うふふふ…ほんとに仲がよろしんですね。…ところでここはどの辺りなのですか?」
ルカの言葉で慌ててハルカは袋から地図を出し、広げる。
「ここがワンさんの店がある町で…こう来たから…うん、もうそろそろ見えてくるはずだよ。」
「じゃ、さっさと行くとする…」
アツヤのその言葉が終わらぬうちに大きな爆発音が響いた。
それと同時に起こる地響きに3人は体勢を低くする。
「な、なんですか?!今の音は?!」
ルカの叫び声で3人は辺りを見回し始める。音と振動からするとそんなには離れていないと感じた。
「2人共!あれ!!」
幾分もしないうちにハルカが叫んだ。指差す方向には煙が見え、それはどうやらその先に街があるようだった。
「…どうやら町で何かあったらしいな。急ぐぞ!!」


「どうやら町自体に何かあったわけではないようだな。側の森で爆発が起きたらしい。
立ち入りが禁止されてるから誰もいないはずらしいんだが…。」
街に着いたアツヤ達は宿屋に部屋を取ってから情報を集めに出ていた。
「…この町は何か意図的に隠しているものを感じます…何かの支配の力があるようですね。」
ルカは行き交う人々の中に怯えの感情を感じてそう囁く。
「多分…あれのせいじゃないかな。」
ハルカが指差す先には壁と兵士に囲まれた建物。それほど大きくはないが爆発のあった森に隣接し、入り口には兵士とただの研究所というには怪しく思える。
「ん〜…何かの研究所のようだね…しかもあのマークは…ちょっときな臭くなってきたね〜。」
三人は研究所を見つめて佇む。別に理由もなく、3人はそれぞれの思いで佇む。
様々な考えが錯綜する中で一瞬の油断があった。
「…訳あり…って聞いたはずよ??」
そんな中で不意に声を掛けられ三人は振り返り様に身構える。
「ちょっとちょっと!ワンさんの依頼で来たんでしょ?」
よほどこちらの様子に驚いたのか慌ててワンの名前を出す女。
「…となるとあんたが依頼の…。」
アツヤの言葉で3人は構えを解く。ようやく警戒が解かれた事に安心した女は軽く笑む。
「そ。私はフヅキ。よろしくね。とりあえずこんな場所で立ち話するのもなんだし…宿屋行きましょうか。部屋、取ってあるんでしょ?」
そう言いながら足早に歩き始めるフヅキ。軽やかに人ごみの中を抜けていく。
質問する暇もなく歩き出したフヅキの後を慌ててアツヤ達も追う。
街の中でも今いる通りは大きいらしく、多くの人が歩いている。
両側には店も見える。夕食も近いこの時間は多くの人で賑わうのだろう。
まるで人々が止め処なく流れる水のようにこちらに向かってくる。
その多くの人の流れとは逆向きに進む。幾人ともすれ違う。先にいるフヅキを見失わないように注意しながら…
「…マッテタヨ…」
不意にそう聞こえた気がしてルカが振り返る。
立ち止まるルカを不審に思い、アツヤとハルカも足を止める。
「ルカ?どうした?」
駆け寄ろうとするアツヤの腕を取り、ハルカが止める。
「あっちゃん、あの子…。」
アツヤよりもルカの視線の先に気付いたハルカはアツヤに指で教える
3人が一点に視線を集めた先にはまだまだ幼い一人の少年がいた。
人々の流れに乗るわけでもなく…また、逆らうわけでもなく…ただ、そこで眼を閉じて停滞していた。
「…あの…。」
ルカが声を掛けようとした瞬間、少年の瞳が開かれる。
その両眼は血を宿したかのような深い深い真紅だった。

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