■ ファーストクエスト ■

登録を終え、アツヤ達はワンの酒場で昼食を取っていた。
「ムグムグ…登録も終えたし…モグモグ…これで…パーティーとして…ゲホンゲホン！！」
食べていたオムライスが気管に入って苦しむハルカ。
「あ〜！！もう！！食うか喋るかどっちかにしやがれ！！」
アツヤの背中への一撃！
バシッ！！
………
ハルカは安らかな顔をした。
「あらら…ちょっと強くやりすぎたかな…まっ、いいか。ワンさん、酒くれ。」
食べ終わったアツヤはグラスを掲げる。
後ろでは安らかなるハルカをルカが看護している。
…祈りを捧げているだけだが。
端から見れば埋葬前の儀式のようだ。
「昼間から飲むアルカ…どっかの誰かと同じくらい酒豪アルネ…。」
「オレに並ぶくらいの酒豪だって？そんな奴いるのかよ？どんな大男だ？？」
少し身を乗り出すアツヤ。酒の事となると喧嘩腰になるようだ。
「いやいや…ま、そのうち会うかもネ。きっと驚くアルヨ〜。」
含みのあるワンの台詞に疑問を感じたが、酒が注がれると意識がグラスに行ってしまう。
「で…これからどうする気アルカ？」
グラスを手に取りながらワンは尋ねる。
「…とりあえず、まだ仲間が必要だと思うから次の街にでも行って捜すかな。」
「ほぉほぉ。…でも大切な事忘れてないアルカ？」
「大切な事？？」
「あっちゃん…ミー達の所持金は底をついてるんだよ…。」
奇跡の復活を遂げたハルカ。
「うぉ？！いきなり驚かせるんじゃねぇ！！」
「これも神のご加護のお陰です…。」
うっとりと目を細めるルカ。
（いや…それはないだろ…）
と、思いつつも誰も口にはしなかった。
　
「…要するに路銀が無い訳アルヨ。ＯＫ？」
「…そいつは予想外だったな。」
余程、頭に無かったのかアツヤはかりかりと頭を掻く。
「そりゃ、ミーが管理してるからねぇ…でも、少しは気にしといてよ…。」
そう言いながらハルカはテーブルの上に財布を空ける。
チャリーンっと音がして出てきたのは１クレストが数枚。
「こりゃ…ひでぇ…。」
「これだと次の街どころか明日の心配しなくちゃ…。」
「お金が無いから動けないとは…なんとも寂しいものですね…。」
はぁ、と同時にため息をつく３人。
「そんな君達に朗報アル♪」
そんなワンの明るい知らせそうな声に３人は一斉に顔を向ける。
「何！！ワンさん！！いい話があるの？！」
まるでじゃれつく犬のように駆け寄るハルカ。
もし、しっぽがあるなら千切れんばかりにぶんぶん振ってるだろう。
「パーティーを登録する事でのメリット、知ってるアルカ？」
「えっと…酒場からの情報提供でしょ？それから、万が一、お金が無くてもツケで泊まったり食べれたりする…今のミー達みたいに…。あと、何だっけ？」
「依頼…クエストだな。」
首を傾げるハルカの後ろからアツヤが言う。
「そうアル。酒場には時として依頼が持ち込まれるアルヨ。子守りからモンスター退治まで幅広く、あらゆる人から持ち込まれるアル。」
「なるほど…それを受諾して、成功すればお金が頂けるという訳ですね。」
うんうん、と納得するルカ。
「それでは依頼がある、と理解してよろしんでしょうか？」
「もちろんアル。それもかなりの金額を期待していいアルヨ〜。その分、ちと厄介なものだけどネ。」
いつの間にか手にしていた地図を広げるワン。そして一点を指で指し示す。
「ここがこの街アルヨ。今回の依頼はここからすこし北に行った所のこの街。ここに行ってきて欲しいアル。」
「具体的には何をすればいいの？」
「そこにいる人物の手助けをして欲しいアル。少々、危ないアルが…やるアルカ？」
　
「ちなみに報酬は前金で３００、後金で７００アルヨ。」
「えぇ！！総額１０００クレストのチャンス？！あっちゃん、ルカさん！！どうする？！」
腕を組んで考え込むアツヤ。
「私はどちらでも構いませんが…お金は必要ですしねぇ…。」
ルカは小さく首を傾げながら言う。
「表」
そう聞こえた瞬間に、ピンッと金属をはじく音。
パシッとアツヤは目の前に飛んでいたコインを捕まえる。
すっと手をはずすとそこには１クレストの『表』
「…あっちゃん、やるんだね。迷ったらいつもそうやって何かで決めるんだもん。」
「別にいいだろ。これでミスった事ねぇんだから。…やるよ、ワンさん。いいか？ルカ？」
「はい。私は構いません。」
３人の意見がまとまった所でワンさんはにっこりと笑いかける。
「ＯＫ。じゃあ、酒場『Ｋｉｎｇ』からの依頼アル。行けば向こうから接触してくるからヨロシクアルヨ。これ前金アル。薬草とか買うとヨロシ。」
ハルカが受け取る。軽かった財布がありがたい重みを帯びる。
「うし…んじゃあ、行くとするか！」
「はい。参りましょう。」
「じゃあ、ワンさんいってきまぁ〜す！」
　
交わった運命の線は太く、長く…しかし確実に次の交わりを求めて動いていくのだった。

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