■ 動き出した歯車 ■

「ルイム?ルイム??いないの?」
 あたしは窓から聞こえる母親の声を無視してあたしの解放区へ向かった。
 街から離れた森はあたしだけが知っている小さな小屋があった。そこがあたしのもう1つの家だ。
 どうしても上流階級のやつらが偉そうにしている街の暮らしはあたしには合わなくて、1日のほとんどをここで暮らしている。何年か前まで猟師が住んでいたのか、お鍋やらランプやらいろいろあって困ることはない。おなかが空けば街から持ってきた食べ物や、いざとなったら森の木の実を取って食べる。
 ここはあたしの解放区だ。
 上下関係とか、権利とか欲望とか、そういうものはここにはない。自由気ままに生きていける、そういう生活があたしには合っている。集団生活なんて元から性に合ってないんだ。
 ここでもいわゆる弱肉強食なんだけど、人間みたいにドロドロしてない。いざという時はお互い助け合うし、人間なんかよりずっといい。
 ずっとここで暮らしていく。そう思っていた。
 でも・・・
「…誰かいた…??」
 森の奥へ入ると、どこか雰囲気が変わっていた。
 あたし以外の誰かが来た。しかも複数で。
 すぐにそう悟った。
「…今はいないか。」
 殺気のようなものが残っている。
 小さい頃からそういう事には敏感で、ちょっとした変化でもあたしは気づく。
 殺気といっても、森の動物たちが発するような野性的な殺気ではない。人間の、しかも手慣れた人間の殺気だ。
 そんな日々が何日か続いた。
「…お前も感じるの?」
 小さい頃、ワナにかかっていたのを助けてやって以来、いつも一緒に森を飛び回っていたハヤブサのライムも落ち着きがない。せわしなく羽を動かし、何かを警告するかのようにあたしの腕を甘噛みする。
 いつも静かなはずの森が少しざわついているように思える。
 今思えば、これがあたしの旅の始まりだったのかもしれない。
 同じような生活から抜け出すための小さな小さなきっかけ。
「…森を荒らすのが目的じゃないみたいだね。」
 何かを追いかけて走りまわった跡をライムが見つけた。
 森の動物に手を出してないところを見ると森を荒らしたり、壊そうとしている訳ではないらしい。
 とどまっている訳ではないが、ここから離れた訳でもなさそうだ。
「すぐ元に戻る。ここはあたしの解放区なんだから。」
 でもこの時あたしは気づいていなかった。
 これがあたしの運命の歯車を動かし始めたことを―。

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