■ Moon night ■

「…集まったようじゃな。」
一族の長である長老が重々しく話し始める。
「知っての通り、我らの一族はこの『写身術』の門外不出を守り、伝え続けてきた。それは宗家と分家に別れ、長い歴史の中…」
長老の長々とした話はリトにとって退屈のほかでもなかった。意識しなくても睡魔が襲ってくる。
「…であるからして宗家の息子が代を引き継ぐことに際し、その妻を選ばなくてはならん。」
長老の隣には宗家の当主とその息子が座っている。
「今年、選ばれたのは2人。その一人はアクア、お前じゃ。」
リトの正面に座っていた少女が立ち上がる。
「大変、光栄でございます。」
アクアはリトと同じ年であるのだが幾分、大人びて見えた。
「うむ。そしてもう一人は…あ〜…なんだ…その…」
さっきまですんなりしゃべっていた長老が突然口ごもる。
「長老?どうしました?みんな待ってますよ?」
側近の一人が急かすとゆっくりと口を開いた。
「リトじゃ。」
「…ほえ??」
突然、名前を呼ばれたリトは寝ぼけている。
「…はぁ…大変…有り難く頂戴いたし…申し上げます…なり?」
なおも寝ぼけ続けるリトに長老は諦めたように言う。
「もうよい…2人は宗家の妻にふさわしい技量を持ってもらわねばならん。そのために2
人には旅に出てもらう…よいな?」
 
 
集会が解散した後、リトは村の外れにある池にいた。その日は月が綺麗に輝き、水面に映る様は月が2つになったように見えた。
「ここにいたんだ。」
一人の少年ががリトに声をかける。
「あっ、ムロウくんだぁ〜。」
「そんな呼び方でいいのかよ?俺はもうすぐ宗家の当主だぜ?」
そんな言葉に首をかしげるリト。
「だって、ムロウくんはムロウくんでしょ?」
リトの言葉に固まるムロウ。そして心の奥から湧き上がる想い。しかしそれは掟に縛られた今では口に出すことは出来ない。想いを最大そして最小の言葉で伝える。
「…がんばれな。」
そう言うとムロウは村の方へ駆けていった。リトはきょとんとしてムロウの背中を見つめる。月が輝き、しばらく背中を照らす。
「…変なムロウくん…。」
その背中を見つめるリトの表情は影に隠れる。数日後には旅立ち。しばらく今の生活からは離れることになる。少しのセンチメンタリズムを抱きながらリトは少しづつ夢へと誘われ始める。
「むにゅむにゅ…おいしいものあるかな〜…。」
様々な想いが巡る夜は旅立ちの日までを優しく、しかし確実に見守っていくのだった。

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