■ 幻想の刻 ■

――僕が過ごすのは薄暗い無機質な部屋の中。
窓はなく、この部屋を外界と繋ぐのはたったひとつの扉。…それは堅く閉ざされている。
 
意識が保てない。今日はいろいろあったから…少し疲れちゃったみたいだ。
白い、少し硬いベットに身を預けて僕は宙を眺めていた。
眼を動かす以外のことは出来ないほどに憔悴していて、体が自分のものでないようだ。
意識が散漫としていて、虚ろな思考に要らない言葉が進入してくる。
瞳を閉じると、いろいろな人の“声”が聞こえてきた。脳に“直接”響いてくる…不協和音。
聞きたくない、でもいっぱい僕の中に入ってくる。
耳を塞いでも、途絶えることのない“声”が僕の心を苦しめる。
だから、僕は意識に蓋をした。
 
瞳を閉じて、心に蓋をして、そして無にした空間に浮かび、感じるのは太古の記憶の欠片。
掴もうとしても、手に触れることもできない。幻のようなもの。
空っぽな僕の記憶。自分が誰なのか、自分自身では証明できない。
覚えているのは、ただ静かな居場所の中で、守られて、そしてすべてを失ったということ。
今の僕を動かすものは何なのか。そんなこと、僕にはわからないんだ。
長い夢から醒めて、でもまだ深い眠りの中のようで。誰かが起こしてくれるのを、待っているのかな?
現実と夢の区別なんてわからない。だってそれを証明するものがないのだから。
 
反射水晶には青白く哀れな一人の子供が映っていた。瞳の色はその姿にふさわしくない赤が宿って。
モノ云わぬ瞳には、何の感情の色も存在しない。
額には、己が異質だと象徴するモノが在る。
 
 
 ふと、夢を見たんだ。誰か…みんなが、僕を此処から出してくれる夢を。
 それは僕の脳が創り出した幻だけど、すこしドキドキした。
 まだ何も解らない生まれたばかりの僕が、この先何を知るか、何も知らないままでいるかは…僕次第。
 
 
――少し夢を見ていたみたい。頭がぐらぐらする。
僕に求められたのは、ただ僕に流れる唯一の血の能力。
僕はただそれを解放していればいいんだ。何も拒む理由はない。それが存在意義だから。
 
重い扉が開き、外に出るように促された。
体を起こして、僕は黙って開かれた道を進んだ。
 
この先に何があろうと構わない。ただ、促されたままに僕は動くだけ。
それがこの僕という存在。
 
 
 
 
…そう思っていたのは幻想の刻。
自ら進むことを止めた世界を置き去って、外界では全ての物事は着実に進んでいた。
この生を中断した心に、再び時を与えるものが現れるのは…もう少しあとのこと。

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