■ 剣士と魔術師 ■

 大陸の西に位置する町の一角・・・小貴族の家が立ち並ぶ地区で、ハルカは生まれた。
 その町では魔術が盛んに使われており、小さい子供でも基本属性の魔法程度は使えるはずなのにハルカだけは落ちこぼれていた。
 彼が魔術に興味を持ったのは五歳のとき…町にやってきた奇術師団『ミスティ=ホーン』の影響だ。彼らは空中に浮いたり、また火や水を自在に操る高等魔術でショーを行っている旅の一座で、ハルカは彼らの魔術に魅了され、あんなふうになりたいと願って一心に魔術を勉強し始めた。
 ところが五年ほどたった頃には、彼は父を師としての訓練に疑問を持ち始め、いつしか町の外への修行にあこがれていった。
 時を同じくして、ミスティ=ホーンが再び町にやってきた。
 ハルカは家を出るなら今しかないと思い、反対する父親を唯一覚えた氷結魔術で氷漬けにした。母親も止めはしたものの、ハルカに直接の危害を加えようとはしなかった。ハルカは家を飛び出す際に、家宝だった『デンスロッド』を持ち出して、ミスティホーンのテント地に足を運んだ。
 はじめは団長のレサという女性にこっぴどく断られたが、後に引けないハルカはそのままミスティホーンの馬車に紛れ込む。
 翌朝、団長はハルカの強引さに負け、ついに入団を許可した。
 これがハルカ10歳の出来事だった。
 
 それから4年後、ハルカは目を見張る上達ぶりをみせた。
 ミスティ=ホーンの中で彼に魔術を教えたのはラストルという男の魔術師だった。ラストルは様々な方面の知識があり、とりわけ魔術に関しては団長以上に博識でハルカの教育係にはぴったりだと暗黙の了解で決められたのだ。
 ある日、いつものように馬車に揺られながら魔術書を読みふけるハルカに、ラストルが言った。
「ハルカ、あそこに城がみえるだろ?」
 言われてハルカは、馬車の窓から丘の上に立っている城を眺めた。前方に広がる町の中心に位置してるその城は、まだ新しいように感じた。
「これからあのイクルーズ王国に行くんだけどね、あの王国の護国騎士団――『イクルーズ王国魔法騎士団』っていうんだけどね――はミーたちミスティ=ホーンとすごく仲がいいんだ。」
「へぇ〜そうなんだ!」
「ウチの団長のレサが騎士団設立にあたっていろいろと助言したとかでね、騎士団の団長さんとレサは特に仲がいいんだ。」
「あ! だからレサ、今朝からあんなに嬉しそうなんだね。」
「うん。今日はきっと彼ら(騎士団)との交流会になるから、楽しい一日になるよ。」
 そんな会話を聞いていたのか、馬車はコロコロと軽快な音を立てながら、イクルーズ王国に入っていった。
 入国すると、レサは中心街からひとつ通りを隔てた広場に馬車を停めた。広場の周りには見栄えのする建物が連なって建っている。その中の入り口のひとつから、鎧姿の男が一人ゆっくりとした足取りで出てきた。
「カイン! 久しぶりね。元気にしてた?」
 そういいながら、団長のレサは馬車から降りると鎧の男――カインと呼ばれた――のもとへ歩み寄った。軽く握手を交わし、カインが答える。
「ああ、みんなピンピンしてる! そちらも変わりなさそうでなによりだ。」
「例のアツヤ君はどこ?」
「まだみんなと一緒に町の外へ修練に行ってる。もうすぐ帰ってくる頃だから…まぁ入ってくれ。積もる話もあるだろう」
「ええ。お互いに・・・ね。」
 ハルカは他の団員とともに彼の後に続いて建物の中へ招かれた。
 中は意外と広く、きれいだった。騎士団の宿営地ということで、テントのようなところを想像していたが、それとは程遠い感じだった。廊下のような通路を奥に進んで、メンバーは長いテーブルの置かれた大広間のようなところに通された。
「そちらの新人は彼かな?」
 席について、団員に紅茶を用意してから、カインが切り出した。
「ええ。ハルカ、来てくれるかしら?」
「は〜い。」
 出された紅茶をすすっていたハルカは、カップをテーブルにおいて彼女の横に座った。
「はじめましてハルカ君。私はイクルーズ王国魔法騎士団を束ねる、団長のカインという。」
「ど、どうも。ミーはハルカといいます。」
「ミスティ=ホーンは楽しいかな?」
「はい! とても。」
 言いながらハルカはチラッとレサの顔をみやった。彼女はとてもいい笑顔を返してくれた。
「ありがとう。ハルカ」
 そんな言葉が聞こえた気がした。
 それからしばらく後、入り口からぞろぞろと戦士風の男たちが帰ってきた。魔法騎士団の面々だ。一人だけ、ハルカと同じくらいの年齢と思われる少年が一番最後に部屋に入った。その少年のほうを見ながら、レサはカインに尋ねる。
「彼がアツヤ君?」
「ああ、そうだ。今はまだナンバーユニットには入っていないが」
「歳は?」
「12歳だ」
「じゃあハルカと二つ違いね」
 端のテーブルでそんな会話が交わされる中、ハルカは不意か故意か、隣に座ったその少年と目が合った。
「こんにちは」
 どちらからともなく、その言葉が飛び出す。
 これがアツヤとの最初の出会いだった。
 年が近いのも手伝ってか二人はすぐに打ち解けた。
 やがてレサとカインの話の流れで、今日はここで泊まってゆくことになったらしい。なんでもチェスで勝負したいとレサが言い出したらしいのだ。
 アツヤと話す時間が増えて喜んだハルカは、当然彼の部屋で寝ることになった。
 アツヤが天井のランプを消して、床に敷いた寝袋にもぐりこむ。
「本当にいいの?ミーが布団つかっちゃって・・・」
「いいって。気にするなよ。今日はハルカがお客だ。」
「・・・ねぇ、あっちゃん」
「ん?」
「あっちゃんはなんで騎士団にはいろうと思ったの?」
 窓から差し込む月明かりの中、ハルカはふとした疑問を漏らした。少しの沈黙の後アツヤの唇が動く。
「俺は・・・町がモンスターに襲われて、そのとき助けてくれたのがあの騎士団だったんだ。それで、俺も強くなりたいって思って…」
「そうなんだ。」
「ハルカは?」
 聞き返されると予想していなかったハルカは、少しあわてながら言った。
「ミーはね、えっと、ただの憧れだよ。小さいときにミスティ=ホーンのショーを見て…それでさ。」
 あはは、と乾いた笑いを付け足して、ハルカは窓から空を見上げた。
 そしてまた、しばしの沈黙。次に疑問を漏らしたのはアツヤのほうだった。
「どうでもいいけど、お前の一人称なんでミーなんだ?」
「あ…これはラストルのが写ったんだ。もともとは僕って言ってたんだけど…変だよね」
「う〜ん確かに変だな。でも…」
「でも?」
 途切れた会話の、その続きが気になった。一瞬、フッと空気が笑った気がした。
「そのほうがハルカらしい。」
 今度は二人して、少し笑った。
 それから夜が更けても、彼らの会話は終わらなかった。長く、いつまでも続いてほしいと感じた。そんな一夜だった・・・。
 
 翌朝、ミスティ=ホーンは馬車に乗って次の町へと移動する準備をすませて、騎士団と別れとなった。
「次は何年後かな?」
「またすぐ来るわよ。チェスであなたに勝てるようになってね。」
 言い回しからすると、どうやら昨晩のチェスの勝負はレサが負けたようだ。
「じゃあダメだ。一生これなくなるじゃないか。」
「もうっ! 次は絶対勝つからね!」
 じゃれあっているレサとカインのすぐ傍で、ハルカもアツヤとの別れを惜しんでいた。
「また会おう! 絶対だ。」
「うん。必ず、ね!」
 そして昨日と同じように二人は固く握手を交わした。
 
 それが四年後、死闘の中での再開になるとは夢にも思わずに・・・

Prismaticへ  indexへ

Copyright (C) 2005 Key of Star - endless story -.

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送