風が吹き荒れる荒野に一人…。
ワンは一人の男を待っていた。
目を閉じ、全身の感覚を集中させる。
遥か遠くからでもその気配は感じられる。
「この男…いや、この漢とは命をかけて決着をつけねばなるまい。」
普段のワンからは想像もつかない程の闘気が充満している。
「…待たせたな。」
その漢、シオンという。
「ふん…別に構わん。ようやく決着が付くのだからな。」
ワンは組んでいた腕を解き、シオンを見据える。
周囲の空気までもがその闘気に怯えるかのように…全てが停滞し、静寂と化す。
「相変わらず…だな。」
ふっと、笑いを零し、構えを取るシオン。軽くステップを踏んでから静止する。
刹那とも永遠とも取れるその時間。
均衡を破ったのはシオンだった。
二人の間合いは三歩半。その間合いを一瞬で詰める。
右の下段蹴りをフェイントにし、そのまま上段に蹴り込む。
しかし、それは事前に予測されていたかの如く、すんなりと避けられる。
そして、また静寂…
「やっぱり、小手先では勝てないか。」
「無論だ…全力で来い!!」
その言葉も終わらぬうちに、シオンは再び間合いを詰める。
気を抜けば終わる。
それはお互いに感じている事。
凄まじいほどの打撃音。
息つく間もない攻防戦とは正に、この事だろう。
時に空を切り、空気を震えさせる。
時に相手を捕らえ、傷を与える。
時に相殺し合い、その度に衝撃音がこだまする。
どのくらいの時間、闘っていただろう…
お互いに、一旦離れる。
息が切れる…
「はぁはぁ…やっぱり、強いな…。」
「くっ…小僧もやるようになった…。」
「そりゃどうも…けど、そろそろ決めるよ。…時間も無いしね…。」
「そうだな…行くぞ!」
同時に動く二人。
「これで最後だ!!」
シオンの繰り出す蹴りで空気を裂き、無数の衝撃波が飛ぶ。
「はぁっ!!!」
その全てをワンが放つ氣弾が相殺する。
目が眩む様なまばゆい光…その中で二人は激突する。
『2P、WIN』
「アイヤー!!負けちゃったアルヨ!!」
「これで10勝9敗か…。」
街の一角にあるゲームセンター。その中でアーケード機を挟んで向かい合う二人。
「やっぱり、大会優勝者は強いアルネ〜。」
王は腕を組み、ふむふむと頷く。
「…てかさ、その大会優勝者と互角に渡り合ってるアンタは何者だよ…。」
二人がやっていたのは今、巷で大ブームのゲーム『インフィニティー・ファイターズ』
その人自身のデータを読み込み、自分自身をキャラクターとして使うことが出来る。
正に『無限』のキャラクターが存在する訳だ。
「俺さ…大抵の大会に出てるけど、アンタは見かけたことないぞ?いったい、何者なんだ?」
「ふっふっふ…ただの暇人、アルヨ♪」
「ふぅ〜ん…まぁ、いいけどね。じゃ、俺はそろそろ行くわ。友達と約束あるからさ。」
「そうアルカ。じゃあ、また機会があったら対戦するヨロシ♪」
「あぁ。じゃ、またな。」
そう言いながら、席を立ち、店を出る紫苑。
「変な人だったけど…強かったな。まだまだ修行が足りないな。」
約束の場所へと足を進める紫苑。
彼の後ろのゲームセンターにはもちろん、看板がある。
『GAME King』
ついでにいうと『インフィニティー・ファイターズ』の本体には…
『King Entertainment』
この事に紫苑が気付くのはもう少し後……
かもしれないし、気付かないかもしれない。
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